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ABOUT WORKS

たちばな童園のパネル画を終えて

 

1993年7月。私はイギリスのスレード美術学校を修了したちょうどその月、恩師バルトロメオ・ドス・サントス先生(当時は版画工房主任、後にUCL名誉教授)に招かれてポルトガルの地を初めて踏みました。リスボン空港に降りたとたん、夏の大西洋の熱い空気に包まれたのを覚えています。空港には先に自宅に戻られていた先生が迎えに来られ、ポンバル広場や市内の要所を車で回ってくださり、私は車中からひたすら写真を撮っていました。

 

ポルトガルへ赴いたのは、あるプロジェクト壁画の制作のためでした。先生はスレードで私の過去2年間の作品や制作の姿をよく見てくださって、日本人であるという理由もあったと思いますが日本ポルトガル450周年記念のメモリアル壁画を共同制作チームに私を迎え入れてくれました。ほかにはスレードの助手だったウーナ・グライムス、マックス・ヴァーナーとスタッフのサーラ・ウルダールさんらが加わり、翌日シントラ郊外の石切り工場に向かいました。壁画は大理石を強酸で腐食するストーン・エッチングと呼ばれる技法で私には初めての体験でしたが、銅版画の腐食の原理と同じであり、かつ2年間のスレード生活でチームのメンバーはお互いよく知った仲だったので、作業に磨きがかかり、わずか2週間ほどで壁画は完成しました。完成した壁画を見ながら先生は、私たちひとりひとりに「自分たちのやったことはアシスタントではなくコラボレーションだ。今後この作品のコラボレーターと名乗りなさい。」と声をかけてくださいました。コラボレーションという言葉は、今では当たり前のようですが当時はあまり聞いたことがなく、私はこの時初めて制作上のどのような立場で作品に関わったのか、周囲にどう説明すればいいのか、そのことの重要性を教えていただきました。28歳の時でした。

 

その後も隔年にわたり、先生とのコラボレーションは続きました。大きな壁画もこうやってチームワークがあればできるんだな、ということをその都度身をもって知り、やがてそうしたコラボレーションの輪、いわば制作のチームを作りたいという気持ちがでてきました。こうした作業を経験したことで画中に他者の痕跡が残ることにあまり頓着がなくなり、特にパブリック・アートの世界では様々な要素や画風が自然に共存し、それらをいかにうまくオーケストレートしていくかがアーティストの技量なのではないかと思うようになりました。

 

私は2025年に東伊豆町稲取地区で開催されたイナトリ・アート・フェスに知人でギャラリストの癸生川栄さんのお誘いで参加することになりました。フェス開催の前に町民の方々にタイルワークショップを開くことになり、約30名の参加もあって盛況のうちに終わりました。地域のつながりをもう少し広げたいなと思って、地元の中学校、高校にも声をかけてたのですが、ふとしたことで見学に向かったこども園がワークショップに興味を示してくれ、早速11月に48人の園児たち、3クラスにタイルワークショップをすることが決まりました。準備にはすこし心配なところもあったのですが、園の先生方らのご協力もあって無事何事もなくセッションを終わらせることができました。(その時の園児たちの作品一枚一枚はインスタグラム @tile_gardenに掲載してあります。)ワークショップは終わりましたが、もっと多くの人たちに子供たちの素晴らしい芸術の世界を共有してもらいたい、との園の先生方の希望もあり、最初はメールのやり取りでしたが、やがてプラン図のやり取りに変わり、園の先生方のアイディアも集約した形で”Tachibana Panel A - Green Plan/ Sample 7”が誕生しました。そしてこのデザインに沿って2026年1月から壁画として本格的に制作が始まり、早春3月末には最後の加筆・調整を行って箱詰め、4月中旬園に作品は納品されました。大工さん、タイル屋さんとの日程調整の結果、5月2日に園の外壁に無事設置されました。

 

様々な場面で私には人生初のコラボレーション、ポルトガルの壁画が胸の中で重なるときがありました。また今回はタイルを描いた無垢のアーティストたちがコラボレーターということも美術教育上でも意義あることであり、園を囲むように群生する野イチゴや蝶、野鳥の描画にアーティスト二井矢春菜さんにお願いをし、コラボレーターとしてクレジットさせていただきました。パブリック・アートのあり方としても非常に高い完成度があり、達成感も十分に感じたメモリアルな作品になりました。

 

2026年6月

                                       白須 純 

パネルと園児_edited.jpg

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